アルコール

友人から口内が痛いと医者に行ったら、ビタミン不足だと言われたと聞いた。彼は一人暮らしの為どうしても食事が偏りがちになるが、それなりに気を使っているつもりだったらしく、ショックを受けていた。毎日の食生活を聞くと大体こんな感じ。
　朝はコンビニのミックスサンドイッチ、豆腐、プロテイン。昼は食堂の定食。夜は鶏肉とカット野菜をレンジで温めたモノ。細かいことを言えば、炭水化物が少なくて、タンパク質が多く、食材が少ないなど、気になるところはあるにせよ、一人暮らしの男としてはマシな気がする。僕が独り暮らしの時はもっとひどかった。朝は菓子パン、昼は定食、夜は牛丼。色々な栄養が足りなかったと思う。とはいえ、医者からビタミン不足だと言われ、ビタミン剤を飲んだら改善されてきたということは、やはりビタミン不足で間違いないだろう。
　そして、ふと思い当たった。彼の酒量だ。アルコールがビタミンを消費すると聞いたことがある。それが悪さをしているのではないかと、酒量を確かめると毎日3-4合飲んでいるらしい。ネットで検索するとアルコールがビタミンB1を消費するという話がわんさか出てくる。たぶん、これが原因だ。彼に伝えたところ、「じゃあビタミンもっと多く摂らなきゃな」と言っていた。いや、酒を減らせ。もう、ビタミン不足というかアルコール依存症一歩手前だ。でも、それは出来ないらしい。夕食中、後、就寝前、ここで酒を飲まない生活は出来ないようだ。
　ちなみに、僕は人がアルコール依存症になってそれと戦っているところを見てきた。依存症まっただ中の時の彼は飲みすぎていつも金欠状態。付き合いとして、僕はたまに彼と仕事帰りに飲みに行っていた。もちろん、その時はアルコール依存症だなんて知らない。彼の後を付いていくと、彼はその街で一番安いのではないかという居酒屋に入る。そして、焼酎1本（720ml）と水とカットレモンを注文する。僕はビールとおつまみを頼む。会計は自分の頼んだ分を払う。30分で焼酎を飲み終え、もう一本追加する。食べ物は頼まない。空腹に酒を流し込んでいる。話は全く面白くない。そんな酒だから、最初から決めていた1時間のタイムリミットが来ると僕は早々に帰る。彼も金がないから、一緒に出る。そして、駅で解散していた。とんでもない速さで酒を飲むとは思っていたけれど、安上がりだし、時間も短いし、まぁそんな飲み方もあるかと深くは考えていなかった。
　しかし、後から聞けば、それは毎日続けていたし、家に帰ると奥さんに金をせびり、奥さんが出さないと手を上げて、そしてまた飲み屋に戻っていたようだ。そこから先は本人の記憶もまばら、店もキャバクラ。一日5万、10万なんて簡単に出ていく。結局、酒代で8桁近いお金が無くなったようだ。その後、治療施設に1年以上入院し、なんとか社会復帰した。それでも治らずに飲酒し、今はアルコール分解酵素を作れない体にするため薬を飲んでいる。食事にいっては入院中に出会った重い依存症の人のエピソードをして、ああはなりたくないと思って立ち直ったと言っているが、入院後に飲酒しているので何の説得力もない。